【慢性心不全の症状・検査・治療】
慢性心不全(CHF)は、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を供給できなくなる進行性の疾患です。日本循環器学会のガイドラインや主要な国際的なレビューに基づき、症状、診断、治療について解説します。
症状
慢性心不全の主な症状は、心拍出量の低下や体液のうっ滞によって引き起こされます。代表的な症状には以下のものがあります:
呼吸困難:運動時や横になると息切れが生じ、夜間に悪化することがあります。
倦怠感・易疲労感:身体活動に対する耐性が低下します。
浮腫:足首や下肢、腹部のむくみが見られます。
体重増加:体液の貯留による急激な体重増加が起こることがあります。
頻尿:特に夜間に尿意が増すことがあります。
食欲不振・悪心:消化器系への血流不足や腹部のうっ血が原因です。
認知機能の低下:記憶力や注意力の低下が報告されています。
診断
慢性心不全の診断には、以下の検査や評価が用いられます:
身体診察:頸静脈の怒張、肺のラ音、下肢の浮腫などを確認します。
血液検査:BNPやNT-proBNPの測定は心不全の診断や重症度評価に有用です。
胸部X線:心拡大や肺うっ血の有無を確認します。
心電図(ECG):不整脈や心筋の異常を検出します。
心エコー検査:左室駆出率(LVEF)を測定し、心不全のタイプ(収縮不全または拡張不全)を評価します。
また、心不全の重症度は、NYHA(ニューヨーク心臓協会)分類によりIからIVの4段階で評価されます。
治療
慢性心不全の治療は、症状の緩和、生活の質の向上、進行の抑制を目的としています。治療法は以下の通りです:
薬物療法
ACE阻害薬/ARB:血管拡張作用により心臓の負担を軽減します。
ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬):例:サクビトリル/バルサルタン。心血管死や入院リスクを低下させます。
β遮断薬:心拍数を抑制し、心機能を改善します。
MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬):例:スピロノラクトン。心不全の進行を抑制します。
SGLT2阻害薬:例:ダパグリフロジン。心不全患者の予後を改善します。
利尿薬:体液の貯留を軽減し、症状を緩和します。
デバイス療法
CRT(心臓再同期療法):心室の同期を改善し、心機能を向上させます。
ICD(植込み型除細動器):致死性不整脈の予防に使用されます。
補助人工心臓(VAD)や心臓移植:重症例に対する治療選択肢です。
生活習慣の改善
食事療法:塩分制限(1日6g未満)や体重管理が推奨されます。
運動療法:医師の指導のもと、適度な運動を行います。
禁煙・禁酒:心臓への負担を軽減します。
ストレス管理:心拍数や血圧の上昇を防ぎます。
これらの治療法を組み合わせることで、慢性心不全の進行を遅らせ、患者の生活の質を向上させることが可能です。
参考文献
日本循環器学会. 「慢性心不全診療ガイドライン(2021年改訂版)」.
Mayo Clinic. “Heart failure – Diagnosis and treatment”.
Cleveland Clinic. “Congestive Heart Failure: Symptoms, Stages & Treatment”.
Health.com. “Heart Failure Linked to a Decline in Thinking and Memory, Study Finds”
慢性心不全は、早期の診断と適切な治療により、症状の改善や予後の向上が期待できます。定期的な医療機関でのフォローアップと、生活習慣の見直しが重要です。