飛行機のエコノミークラス座席で胸痛と呼吸困難を訴え、ふくらはぎが赤く腫れている女性

長時間移動による静脈血栓塞栓症は、胸痛や呼吸困難、下肢の腫れを伴うことがあります。早期の発見と迅速な対応が重要です。

 

夏バテは心臓にも影響する

8月の猛暑で「夏バテ」を感じる方は多いと思います。しかし夏バテは単なる疲労ではなく、心臓や血管にも負担をかけることがわかっています。

さらに、夏休みの帰省や旅行で長時間移動が増える時期は、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)のリスクも高まります。

 

夏バテが心臓に与える影響

夏バテは医学的には「暑熱ストレス反応」と呼ばれ、高温多湿下で体温調節が限界に達することで発生します。このとき自律神経が乱れ、以下の循環器リスクが高まります。

  • 脱水による血液濃縮 → 血液がドロドロになり、心臓に負担増

  • 血圧変動の増大 → 自律神経の乱れで血圧が不安定

  • 心筋梗塞・不整脈・脳梗塞のリスク上昇

📊 日本循環器学会の研究では、気温32℃以上の日に

  • 心筋梗塞発症率:約15%増加

  • 不整脈救急搬送:約20%増加

  • 脱水による血栓症リスク:約25%上昇

 

長時間移動で注意すべき「血栓症」

静脈血栓塞栓症(VTE)は、長時間座りっぱなしで下肢に血の塊ができ、それが肺に流れて詰まる病気です。重症化すると肺血栓塞栓症による突然死の危険があります。

2025年改訂のガイドラインでは、「長時間座位(旅行・災害時)」を重要リスク因子として明記。飛行機だけでなく、バス・車・電車・5時間以上のテレビ視聴でもリスクが上がります。

 

科学的に効果が証明された予防法

  • 1〜2時間ごとに歩く・足首運動をする(推奨度I)

  • 医療用弾性ストッキング着用(推奨度IIa)

  • こまめな水分補給(アルコールは控える)

 

飛行機のエコノミークラス座席で、左足のつま先を上に向けて足首運動をする女性

 

福本医院の夏季循環器ケア

当院では、循環器専門医が予防的アプローチを重視し、心電図や血液検査による早期発見、個別リスク評価、旅行前健康チェックを行っています。

夏バテ予防の基本

  • 水分補給:1.5〜2Lを少量ずつこまめに

  • 室温管理:屋内外の温度差は5℃以内

  • 栄養バランス:ビタミンB群・電解質の補給

長時間移動の注意

  • 定期的な運動

  • 弾性ストッキング(着圧タイプのもの、または医療用)

  • アルコール制限

 

受診を急ぐべき症状

  • 胸痛・圧迫感、左腕の痛み、冷汗、動悸・息切れ

  • 下肢の腫れ・痛み、突然の呼吸困難、血痰

 

福本医院

📍 大阪市中央区南船場3-6-19 心斎橋ワダビル2F(心斎橋駅徒歩2分)

🌐 公式サイト

 

📚 参考文献

  1. Şabanoğlu, C. (2021).

    The “Economy Class Syndrome”: the secret enemy during a flight.

    Turkish Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery, 29(3), 401–408.

    → 飛行機の機内環境(低湿度・低酸素・狭い座席)と個人リスク要因(肥満・喫煙・経口避妊薬使用など)の組み合わせによるVTEリスクを解説。予防法として水分補給・運動・弾性ストッキングを推奨。

    全文(PMC)はこちら

  2. Kuipers, S., et al. (2007).

    The Absolute Risk of Venous Thrombosis after Air Travel: A Cohort Study of 8,755 Employees of International Organisations.

    PLoS Medicine, 4(9), e290.

    → 4時間以上の航空機移動後に静脈血栓を発症する絶対リスクは約1/4,656フライト。BMI高値・ホルモン療法・高身長がリスク増加要因。

    全文(PLoS Medicine)はこちら

  3. Philbrick, J.T., et al. (2007).

    Air travel and venous thromboembolism: a systematic review.

    Journal of General Internal Medicine, 22(1), 107–114.

    → 延長飛行(4〜6時間以上)でVTEリスクが約2倍に上昇。既往歴・家族歴・遺伝性凝固異常のある人は特に注意が必要。

    全文(PMC)はこちら

  4. 日本循環器学会・日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン(2025年改訂版)

    → 静脈血栓塞栓症(VTE)予防に関する最新国内指針。長時間座位を主要リスク因子として明記し、歩行・ストレッチ・水分補給・弾性ストッキングを推奨。

    公式ガイドライン(PDF)はこちら