心房細動

「ドキドキする」「脈が飛ぶ感じがする」

そんな症状を感じたことはありませんか?

それは、**心房細動(しんぼうさいどう)**という不整脈かもしれません。


■ 心房細動とは?

心房細動は、心臓の上の部屋(心房)がけいれんすることで、脈が不規則かつ速くなる不整脈です。

健康な人の心臓は、規則正しく鼓動していますが、心房細動では信号がバラバラになり、脈が乱れます。


■ どんな人に多い?

  • 60歳以上の方(年齢とともに増加)

  • 高血圧、糖尿病、心不全などの持病がある方

  • 睡眠時無呼吸症候群のある方

  • お酒をよく飲む方

日本では約100万人以上が心房細動を抱えているとされ、今後ますます増えることが予想されています(The Lancet 2020, JAMA 2021より)。


■ 放っておくとどうなるの?

  1. 脳梗塞のリスク

     心房がうまく動かないことで血液がよどみ、血栓ができやすくなります。

     この血栓が脳に飛ぶと**脳梗塞(心原性脳塞栓症)**になります。

     ➡ 心房細動の人は、脳梗塞のリスクが5倍以上(NEJM 2001)

心房細動から脳梗塞

  1. 心不全のリスク

     脈がバラバラだと心臓のポンプ機能が落ち、息切れ・むくみ・だるさなどの心不全症状が出てくることもあります。


■ 治療の目的は?

☑ 脳梗塞を防ぐ

☑ 心臓の働きを守る

☑ 症状を軽くする(生活の質を上げる)


■ 治療にはどんな方法があるの?

1. 抗凝固療法(血をサラサラにする薬)

脳梗塞を防ぐため、ワルファリンや**DOAC(新しい抗凝固薬)**を使用します。

出血リスクとのバランスを考えながら選びます(CHA2DS2-VAScスコアに基づく)。

2. 心拍数を整える薬(β遮断薬など)

脈を整えて、心臓にかかる負担を減らします。

3. カテーテルアブレーション治療

不整脈の原因となる場所を焼灼(しょうしゃく)する治療。

特に若い方や薬が効きにくい方に効果的です(Circulation 2022年レビューより)。

カテーテルアブレーション


■ 再発や悪化を防ぐには?

  • 塩分・アルコールのとりすぎに注意

  • 睡眠の質を上げる(無呼吸の治療も重要)

  • 定期的な心電図チェック


■ 日本循環器学会ガイドライン(2020年改訂版)より

  • 症状の有無にかかわらず、リスクがあれば積極的に抗凝固療法を検討

  • 心房細動は「発作性」「持続性」「永続性」のタイプごとに治療方針が異なる

  • 心不全や高齢者への治療も慎重に個別対応することが強調されています


■ まとめ

心房細動は「たかが不整脈」ではありません。

**「脳梗塞」「心不全」**といった重大な合併症につながる可能性があります。

しかし、早期発見・適切な治療でリスクは大きく減らすことができます。

胸の違和感、動悸を感じたら、どうぞ早めにご相談ください。


【参考文献】

  1. Camm AJ et al. “2010 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation” European Heart Journal.

  2. January CT et al. “2020 AHA/ACC/HRS Guideline for the Management of Patients With Atrial Fibrillation” Circulation.

  3. Benjamin EJ et al. “The epidemiology of atrial fibrillation” NEJM, 2001.

  4. 日本循環器学会「心房細動の診療に関するガイドライン(2020年改訂版)」