年齢を重ねても続く、夜のやさしい時間

年齢を重ねても続く、夜のやさしい時間

 

こんにちは、福本医院 院長の福本です。

循環器の診察室で、患者様から「心臓の持病があるけれど、バイアグラなどのED治療薬を飲んでも大丈夫か?」というご質問をいただくことがあります。かつては「心臓に負担をかける危ない薬」というイメージがあったかもしれませんが、実は最新の医学界では、その常識が大きく変わりつつあります。

今日は、循環器専門医の視点から、心臓を守りながら豊かな生活を送るための「正しい知識」をお伝えします。

1. 最新の研究が示す「ED治療薬の意外な真実」

かつて、ED治療薬による死亡事故が報じられたことがありました。しかし、その多くは「併用してはいけない薬(ニトロ系薬剤)」を飲んでいたり、医師の診断を受けずに個人輸入した不純物入りの偽造薬を服用したりといったケースでした。

実は、近年の大規模な研究(2024年のJACCなど)では、医師の指導のもとで正しくED治療薬を使用している方は、服用していない方に比べて「心血管疾患による死亡リスクが低い」というデータさえ報告されています。

ED治療薬はもともと血管を広げる薬として開発された経緯があり、正しく使えば血管の内皮機能を助け、心臓にとってプラスに働く可能性を秘めているのです。

2. 性生活は「有酸素運動」である

性生活は、医学的な運動強度でいうと「約4〜6 METs」に相当します。これは「階段を2階分、休まずにトントンと上がる」程度の負荷です。

この範囲内であれば、適度な有酸素運動として心肺機能の維持に役立ちます。しかし、ここで最も重要なのが「無酸素運動」にしないことです。

院長が教える「80%ルール」

頑張りすぎて息が切れてしまう、あるいは胸に圧迫感を感じるほど激しく動くのは「無酸素運動」です。これは心臓にとって非常に大きな負荷となります。

安全に、そして質の高い時間を過ごすための秘訣は、「自分の体力の80%以下の活動にとどめること」です。息切れが起きる手前を意識してください。

3. パートナーの協力こそが「最高の処方箋」

「以前のように頑張らなければ」というプレッシャーは、精神的なストレスとなり血圧を急上昇させます。心臓を守るためには、パートナーに自身の状態を正しく伝え、協力を得ることが何よりも大切です。

性生活は「完遂すること」が目的ではなく、大切な人と過ごす「質の高いコミュニケーション」です。

  • 頑張るのをやめる。

  • 余裕を持って楽しむ。

  • 息が切れたら休む。

このことをパートナーと共有できれば、ED治療薬は「無理をするための道具」ではなく、「心臓に余裕を持たせ、豊かな時間を楽しむための助け」になってくれます。

4. 安全のために必ず守っていただきたいこと

循環器専門医として、以下の2点だけは厳守をお願いしています。

  1. ニトロ系薬剤との併用厳禁: 急激な血圧低下を招き、命に関わります。

  2. 医師による事前チェック: 心電図や心機能を確認し、今のあなたの心臓が「階段2階分」の負荷に耐えられる状態かを診断します。

一人で悩まず、ぜひ診察室で気軽にご相談ください。あなたの人生の質(QOL)を維持しながら、心臓を健やかに保つお手伝いをさせていただきます。

【心臓に優しい性生活の実践ガイド】

  • タイミングの選び方

    • 十分な休息がとれている時(朝など)が理想です。

    • 食後すぐや、飲酒後の服用・行為は、血液が消化やアルコール分解に回り、心臓への負担が増えるため避けてください。

  • 負担の少ない体位

    • 自身が腕で体を支えたり、激しく動いたりする姿勢は血圧を上げやすいため、クッションなどを活用してリラックスできる姿勢を選んでください。

  • もしもの時のサイン

    • 胸の痛み、激しい動悸、冷や汗が出た場合は、すぐに中止して休んでください。改善しない場合は速やかに医療機関へ連絡しましょう。