居酒屋でビールジョッキを手に笑顔でいる中高年男性のイラスト。右下に「ビール500mLはアルコール25g」という文字が大きく表示されている。

こんにちは、福本医院です。

日常生活で何気なく飲んでいる「お酒」。

「適度な飲酒は体に良い」「寝酒をすると眠れる」など、多くの言説がありますが、医学研究はこれらの“通説”とは異なる結果を示しています。

本記事では、世界的に権威のある医学雑誌に掲載された 論文 をもとに、飲酒が健康に与える影響を 心血管、肝臓、がん、睡眠、メンタルヘルス の5つの側面から科学的に解説します。

最後には、日常で実践できる「健康的な飲酒アドバイス」もまとめています。

 

1. 「適度な飲酒」は体に良いのか?

世界規模の研究が示した複雑な現実

2015年に『The Lancet』に掲載された世界12か国・11万人規模の調査では、飲酒の健康影響が国や生活環境によって大きく異なることが明らかになりました。

主要な結果

  • 心筋梗塞リスク:24%低下

  • アルコール関連がん:51%増加

  • 外傷リスク:29%増加

さらに、高所得国では心疾患の保護効果がみられる一方、低・中所得国ではみられない という地域差も報告されています。

つまり、飲酒の健康への影響は単純に「良い」「悪い」とは断言できず、生活習慣や医療環境が大きく関与するということです。

 

2. 心臓病と「J字カーブ」

少量の飲酒が最もリスクが低い理由

2014年のBMC Medicineの大規模レビューは、飲酒と心疾患との関係が「J字カーブ」を呈することを示しました。

結論:

  • 1日30g未満(日本酒1合・ビール中瓶1本) が最も低リスク

  • 女性はより少量で影響が強い

  • 喫煙者では保護効果はほぼ消失

  • 週末の「ビンジ飲酒(まとめ飲み)」では保護効果が完全に消失

つまり、

少量を安定して飲む → ○

一度に大量に飲む → ×

ということです。

 

3. 肝臓への影響

「少量だから大丈夫」は間違い

2019年、American Journal of Gastroenterology のメタ分析は、多くの人にとって衝撃的な結果を示しました。

結論:

  • 1日12g(ビール350ml弱)でも肝硬変リスクが上昇

  • 女性は男性よりもリスクが高い

  • 1日50g(日本酒2.5合)以上で急増

肝臓は“沈黙の臓器”で、症状が出る頃にはかなり病状が進んでいることが多いという点も重要です。

 

4. がんリスク

「安全な飲酒量は存在しない」可能性

2023年のEpidemiology & Healthの139研究の包括的レビューでは、以下の結果が示されました。

軽度の飲酒でも増えるがんリスク

  • 食道がん

  • 大腸がん

  • 女性の乳がん

  • 男性の前立腺がん

飲酒量が増えるほど、ほぼすべてのがんのリスクは用量依存的に増加します。

 

5. 心臓病を持つ人の飲酒

“完全に禁酒すべき”ではないが、注意が必要

2021年のBMC Medicine の研究では、心血管疾患を持つ人が1日7〜8g程度の極めて少量の飲酒をした場合、

  • 全死亡リスク:21%低下

  • 心血管死亡:27%低下

  • さらなる心血管イベント:50%低下

という結果がみられました。

ただし、量が少しでも増えれば保護効果は消失し、

「元飲酒者を除外した再分析では効果が弱まる」

つまり 積極的に飲むことで健康になるわけではない ことに注意が必要です。

 

6. アルコールと睡眠

「寝酒」は眠りを悪くする

2013年のACERの包括的レビューは、寝酒の効果を明確に否定しています。

アルコールがもたらす影響

  • 入眠は早くなるが、睡眠後半が大きく乱れる

  • 中途覚醒が増える

  • レム睡眠が抑制される(記憶・感情調整に重要)

結論:

寝酒=眠れるようで眠れていない

翌日の集中力低下や疲労感につながります。

 

男性がベッドで寝酒をしており、口を開けて大きなイビキ(ガーガー)をかいて眠っている。ベッドサイドのテーブルにはウイスキーのボトルとロックグラスが置かれている。

寝酒をしてベッドでイビキをかいて眠る男性。

7. アルコールとメンタルヘルス

「ストレス解消飲酒」は長期的に逆効果

● アルコール使用障害(AUD)はうつ病リスクを約2倍に

(Addiction, 2011)

アルコールが脳内のセロトニン・ドーパミン系を長期的に低下させるため。

● うつ症状との関係は「J字カーブ」

(Addiction, 2020)

  • 軽度〜中等度ではリスク減少の可能性

  • 大量飲酒では効果が消失

  • AUDではうつ症状が57%増加

 

男性が居酒屋のカウンターで深酒をしており、ストレスで悩んでいる様子。手で口元を覆い、頭上にはモヤモヤした思考の吹き出しがある。テーブルには空き瓶やグラス、つまみが散乱している。

居酒屋で深酒をする中高年男性。ストレスを抱え、物思いにふける。

8. 睡眠時無呼吸症候群(OSA)と飲酒

適量でも悪化する

2000年のEuropean Respiratory Journal の研究では、

  • 日本酒約2合に相当するアルコールで

  • 無呼吸・低呼吸指数が有意に上昇

  • 平均心拍数が上昇

  • ストレスホルモン(ノルアドレナリン)増加

CPAP治療中の方は特に注意が必要で、

飲酒によって治療効果が低下する可能性があります。

また、1982年の古典的研究では、

アルコールが上気道筋を弛緩させることで気道閉塞が起きやすくなるメカニズムも示されています。

 

9. 健康的に飲むための実践アドバイス

1. 寝酒は避ける

睡眠の質を大幅に低下させます。

2. 就寝前の飲酒は控える

特にいびき・OSAのある方は厳禁。

3. 飲む量より“飲み方”が重要

  • 少量をゆっくり

  • ビンジ飲酒(まとめ飲み)は×

  • 週2〜3日は休肝日

4. メンタル不調時に飲酒で紛らわせない

長期的に症状を悪化させます。

5. 定期的な健康診断を

肝機能・血圧・血糖値・脂質は必ずチェック。

 

10. まとめ

飲酒は「少量なら安全」「寝酒は健康的」といった神話とは異なり、

心臓に良い面があっても、肝臓・がん・睡眠・メンタルには悪影響

という複雑な構造を持っています。

重要なのは

“どれくらい飲むか”よりも、“どのように飲むか”

そして 個人の体質・病気・生活背景 です。

飲酒や睡眠、メンタルの悩みがある方は、どうぞお気軽に福本医院へご相談ください。

 

📚 参考文献

心血管・がん・肝臓

  1. Smyth A, et al. (2015) Alcohol consumption and cardiovascular disease, cancer, injury, admission to hospital, and mortality. The Lancet.

    DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(15)00235-4

  2. Roerecke M, & Rehm J. (2014) Alcohol consumption, drinking patterns, and ischemic heart disease. BMC Medicine.

    DOI: https://doi.org/10.1186/s12916-014-0182-6

  3. Roerecke M, et al. (2019) Alcohol consumption and risk of liver cirrhosis. American Journal of Gastroenterology.

    DOI: https://doi.org/10.14309/ajg.0000000000000340

  4. Jun S, et al. (2023) Cancer risk based on alcohol consumption levels. Epidemiology and Health.

    DOI: https://doi.org/10.4178/epih.e2023092

  5. Ding C, et al. (2021) Alcohol consumption and morbidity/mortality in patients with cardiovascular disease. BMC Medicine.

    DOI: https://doi.org/10.1186/s12916-021-02040-2

 

睡眠・メンタルヘルス

  1. Ebrahim IO, et al. (2013) Alcohol and sleep I: effects on normal sleep. Alcoholism: Clinical and Experimental Research.

    DOI: https://doi.org/10.1111/acer.12006

  2. Boden JM, & Fergusson DM. (2011) Alcohol and depression. Addiction.

    DOI: https://doi.org/10.1111/j.1360-0443.2010.03351.x

  3. Li J, et al. (2020) Effect of alcohol use disorders on risk of depressive symptoms. Addiction.

    DOI: https://doi.org/10.1111/add.14935

  4. Scanlan MF, et al. (2000) Effect of moderate alcohol upon obstructive sleep apnoea. European Respiratory Journal.

    DOI: https://doi.org/10.1183/09031936.00.16590900

  5. Issa FG, & Sullivan CE. (1982) Alcohol, snoring and sleep apnea. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry.

    DOI: https://doi.org/10.1136/jnnp.45.4.353